-2-
完璧な「映画的」なシーンがある
日本映画史上屈指の名シーン、最高峰の演出
「映画的」とは言葉を省略しても
観客に感動や驚きや悲しみや喜びは与える技術
そして
この映画のこのシーンでは
その「映画的」な部分が完璧に出来上がっている
家庭の事情で丁稚に出されたまま行方知らずの娘(元教え子)
先生が修学旅行の金比羅様詣のときに
その女の子が働く食堂で偶然出会うシーン
このシーンでは女の子は
恥ずかしさと照れくささで
先生の問いかけにも
うつむいたまま一切言葉を返さない
本当は先生に抱きつきたいくらいな想いなのに
目さえ合わせられない
その子の奉公先のババアが意地悪そうなので
先生は非常に気にかけているが
お別れを言わなくてはならない時間になってしまった
(今書いていても涙がこぼれそうだ)
「元気でね」
先生が帰り際に「元気でね」と声を掛ける→娘は下を向いたまま何も答えない→先生、店を出る→娘、裏口から店を飛び出す→駆ける駆ける→回り込んで表通りへ(先生に駆け寄ろうとする女の子の気持ちがよく伝わる場面だが)→その瞬間、表通りで生徒達が先生を取り囲む→女の子は駆けていた足を止めてしまう→身を隠す娘→そして次のカットで、出航する先生と子供達を乗せた船を追いかける女の子の後姿→(胸がつまる場面だ)→岸沿いに走って船を追う娘→港にて船を見送る娘→娘の泪
この一連
まったくセリフがないのだ
無声映画のようだ
セリフや説明がなくても
モンタージュ(編集によるフィルムの組立)で全て理解させる
セリフや説明がなくても観客に伝えることができる
素晴らしい作品
腕のいい監督の見本