吉田民子は三十二才。極道者の二度目の夫からのがれて、息子の利夫をつれてとび出した。しかしその息子も、脳腫瘍と診断され、途方にくれた。民子は母の芳枝に手術代を無心したが「治らないとわかっている病気に金を使うのは無駄だ」ととりあわず、はては、「もう一度結婚して男から金を出して貰え」というのだった。民子は母のいうなりに田島という韓国人の印刷屋と三度目の結婚をした。田島は利夫の手術代を出してくれ「おれと一緒にいつまで辛棒してくれ」と民子を労わった。民子も「この人とはどうしてもうまくやらなければ」と自分を励ましていた。完全に治癒したと思っていた利夫の病気が又再発した。「再手術は危いあと三、四ケ月の寿命だ」と宣告された民子に、田島は「一日でも永く生かしてやりたい、出来るだけ治療してやろう」という。民子ははじめて田島に深く心を打たれた。どんな人間でも生きる権利がある。残り少い日を人間らしく生かしたいと、オート三輪に乗せて盲学校にかよわせた。利夫がオルガンを欲しいと言い出した。途方に暮れる民子に春雄は一万五千円借りて来て利夫の望みをかなえた。それは幼い日、姉に我まました自分の借りを返えしたにすぎなかった。そんな春雄もバーのマダムをめぐる三角関係のもつれから刃傷事件を起し、無残な最後をとげた。まもなく追うように利夫も死んだ。虚脱した民子を田島は思わず抱きしめた。彼は泣いていた。その時民子は又新しい生命を宿していた。「わたし田島の子を産みたい、私の中には利夫も田島も入っている。何も出来ないけど一人の命を産むことは出来るわ」それは美しい母性の顔であった。
思えば
日本映画では「母」を描く映画が多い
ほとんどの有名な監督が「母」を描いているような気がする
溝口、小津、成瀬、木下、、、
新藤兼人の<母>
主人公の乙羽信子には盲目の息子がいる
乙羽の母は杉村春子
夫には逃げられ、貧しいながらも二男一女を育てた
乙羽と杉村の母娘は
正反対のようにも思えるが
どちらも、女性の姿、母親の姿、、、
この映画では、
主人公の家出した父、弟、そして息子と
血縁の男3人が死んでゆく
残される女
男運というが
そういう運があるのだろうか?
たしかに努力してもどうにもならない一面もあるから
「運」といえなくもないが、
いかにも男に頼らざるを得ない
男次第で自分の人生が左右される
昔の女性の姿、、、
主人公の男運のない女である乙羽信子が
朝鮮人の三番目の夫
『この男とうまくやっていこう』と自分の人生を
その男に預けるように心の中で呟くシーンがある
そして、男の望むように体を預ける
この時点では「愛」ではない
女の生きる術
ところが気付いていくね
一緒に暮らしていけば
この男が、やらしい男なのか、優しい男なのか
身を寄せ合って
一緒に生きていくパートナーを持ちたいと
男は望んでいるのだと、
「もっと大きな家に暮らせるように頑張るよ」
女は言う「いいですよ、ここで」
やがて女は
男が望まなくても自ら体を預けるようになる、、、
息子が死んで
女は気が狂ったようになり入院する
そこで新しい命を宿したことを知る
母親は中絶を勧める
苦労するだけだと、
しかし女は
新しい命の母になることを強く誓う、、、