都心から数時間で着く清水と森の土地に、娘と二人で暮らす主人公がいる、そこに東京の芸能プロダクションがグランピング事業を始めようとする話が持ちあがる、、、
言いそうのないセリフを言わせない(使わない/使わせない)ごくごく当たり前のことだけど、これがなかなか映画やテレビドラマ、あ、演劇なんかでも出来ていない、これが出来ているのが濱口で、本当いい脚本というか巧い、、、
水を汲んだ女が重い水を抱えて進む、キャメラが女を追う、、、こんなに苦労してやっとの思いで水を運んでいるのに、もしも水が汚染されたら、この水を運ぶ意味もなくなるし、ここにいる理由すらなくなる、ここに住む住人じたいがそもそもよそ者なのだ、よそ者がここに来た意味がなくなれば、ここにいる理由もなくなる、、、何気ないシーンだが、この映画の芯になるようなとても大事なことをセリフなくキャメラが女を捉える1カットで語られている、これが出来るのは優れた監督だけ、、、
「じゃ、鹿はどこにいくことになるのか?」と主人公が訊く、鹿が人間を見ればすぐに逃げ出すのなら鹿はその道を通らなくなるかもしれないと男が言ったからだ、そして主人公の問いに深く考えるわけでもなく男は「きっとどこか別のところに行くでしょう」と答えるのだが、主人公は男の不用意なその言葉に明らかに表情を変えた、、、弱肉強食、強いものが来たら、弱い者は去らねばならないのか?強いものがそこに来るまではバランスが保たれていたのだ、そういう上流の者が下流の者のことを気遣いできない考えない発想、主人公と付き合ううちに少しは理解できてきたかと思わせていた男の根底にある、軽薄さ、薄弱さ、無神経さがまた露わになった、、、
そういえば主人公の家に向かう途中の男女の車内の会話で、男が芸能界の仕事について最初どう感じた?かと訊ねたとき、女はこう答える「思った通りのクズの集まりでした」、、、これはきっと濱口の率直な言葉なのだろう、無垢なファンたちを騙して稼いでいるのがこの世界のやり方、クソみたいなクズみたい連中に良いイメージを植え付け売って稼ぐのがその世界、、、エコだ、自然だ、何がグランピングだ、口先だけではいいことばかり言って、結局は金ではないか!いかにもそんな芸能プロダクションが考えそうなこと、きっと濱口自身の何らかの経験から基づいた不信感だったりイラ立ちだったりするんだろうなぁと思わせる、、、
冒頭、キャメラが天を仰ぎながらゆっくりと森の中を進む、冒頭にこれを持ってくるのはこの先の混迷を暗示する、、、黒澤の<羅生門>から始まり、タルコフスキーもアランレネもそうしてきた、、、
ラスト、親子の鹿、これは主人公と娘、そのイメージ、、、娘がこうなったのも(鹿猟の弾丸の犠牲になった)実際のところは東京から来たこいつらのせい、なにかと観客を困惑させている衝撃のラストの解釈、、、こんな伏線的なセリフもあったよね、「もしも鹿が人間を攻撃するとしたら手負いの時だけ」(生きるか死ぬかの時になればイチかバチか攻撃するかもしれない)男女の問いに答えた主人公のセリフ、、、こう考えれば唐突なラストの意味が分かるよね?
本作はかなり質の高い作品だ、<ドライブマイカー>もそうだったけど、その良さが分からなかった人たちには、今回もその良さは伝わらないかもしれない『え、ただの自然破壊問題でしょ』はい、それだけ、、、結局映画は娯楽としてみる、ストーリーで評価する人たちには、とても退屈な映画だろう、、、
かなり真面目な映画と思えるが、けっこう笑えるところもあって、とくに笑えるのはコンサルタントとのリモート会議のシーン、、、コンサルトとは世の中で一番胡散臭い商売とボクは思っているが、きっと濱口も同じことを思っているんだろうなぁ、、、フフフ、、、
P.S.
<GIFT>との比較はあまり意味を持たない
<GIFT>を後から見れば本作の短縮版と言いたいところだが、実際は音楽の背景にある映像を念頭において<GIFT>は撮られた濱口から石橋への贈り物(ギフト)、、、
ちなみにボクの年間ベストで<GIFT>は昨年の2位(1位はせかいのおきく、3位はPERFECT DAYS)
4.5点、、、鹿の水場、水汲み場、薪割り、鳥の羽、マツ、カラマツ、ウコギ、便利屋、管理人、コンサル、うどん、タバコ、婚活、グランピング、浄化槽、補助金、チョークスリーパー、、、