黒沢清監督が
ヴェネチア映画祭で監督賞(銀獅子賞)を受賞した作品で、
別の監督の作品(前作<ロマンスドール>)と続けて2作品連続で夫婦役となった
物語は
「スパイの妻」というよりも「スパイと疑われた男の妻」が正解で
太平洋戦争直前の日本において
正義のために国家機密を米国に持ち込もうとした男と
翻弄されるその妻を追う物語
脚本は
これからの日本映画を背負って立つであろう
本作のラストシーンでは唖然とする一方で大爆笑だった
やるねえ、こいつーーー
その行為は「売国奴」と言われても仕方ないものだが
主人公の信念は
「日本人」である前に「人類人」であること
「民族」よりも世界「正義」
そして、自らを「コスモポリタン」だと言う
以下は一緒に観た次男の感想も含めるが、
劇中「溝口健二」の名が会話に出てくる
どこかで溝口にインスパイアされたショットが出てくるかと期待すると
それは蒼井優の海岸でのラストシーンがそれだった
次男は
次男は
「所作がなってない」「戦争をはさんで生きた女の姿になっていない」と手厳しい
ボクはむしろ、蒼井優は近年続いたエキセントリックな役から
ここ2作品は抑え気味の演技が非常に良く思えるのだが、
さらに第3クレジットの東出に関しては
「もう、これは、演技のヘタさそのものが舞台装置のよう作用している」と、
それを東出を使う監督たちは承知でキャスティングしていると
次男は演技のヘタさを非難せず
むしろ東出の存在自体を楽しんでいる
高橋一生に関しては
演技がどんどん上手くなっているような気がする
細かい動きや表情が繊細に演じられている
遅かれ早かれたいへん評価され
それに相応しい賞もとるだろう
劇中
この映画の脚本にあたっては
<河内山宗俊>をかなり意識して作られたはずだ
本作自体が、そのパロディといってもいいほどなのだから
また
共同で脚本に参加した濱口と黒沢は
ダグラスサークを意識していたそうだ
とくに<天はすべて許し給う>を参考にしたようだ
随所にステンドグラスが映し出される
8Kのキャメラで撮影されたそうだが
やはりフィルムで撮っていたら
もっと良い仕上がりになっていただろうと思う
もはや8Kは
映画を破壊しているとさえ思うのだ
極力セットを組まずにロケで撮影しているが
セットが組まれた場面は
そこだけハッキリとセットと分かってしまって興ざめする
いろいろ苦労して
背景をぼかしたり、早い動きで補ったりしているが
それでは何のための高画質なのだろう
8Kを活かせるのは
自然を映すようなドキュメンタリーであり
劇映画には不向きなのかも知れない
(アランレネやヴィスコンティ、アントニオーニの作品では良い結果が出そうだが)
随所にいい長回しもあったが
次男は「ヘタだ」という
長回しでないところではカットを割り過ぎで
そのカットが適切でないという
そういえば
この映画で大変重要なシーンなのだが
蒼井が夫に抱きつき
訳ありの女が抱き合う夫婦の脇を通り過ぎる
その間夫と女の互いの表情のアップを
交互にカットを割るのだが、たしかに凡庸だ
ボクなら
キャメラはロングでFIXで捉え
女がキャメラに歩み寄ってくるようなアクションで
その女の遠方背後に蒼井優の背中と
蒼井の肩ごしからのぞく高橋の表情を見せ
女が振り返り高橋を見つめると
高橋が目配せする
そんなやり取りならば
1カットでいい画が撮れたはずだ
ヴェネチア映画祭監督賞受賞監督に言うのもなんですが
ま、ボクが監督ならそうするねって話しなんで、、、(笑
でもね、
否定的な意見が多かった次男に比べて
ボクはたいへん面白く観れて、たいへん満足だった、、、
4☺