ボクの住んでいた街は
夜になると
ネオンで夜空が隠れてしまうような
賑やかな街だった
深夜に通りかかると
路上で子供たちがドッジボールをしているような街だ
幼稚園くらいのちびっ子から
小学校高学年くらいまでの子たちが一緒になって遊んで
母親たちの帰りを待っている
深夜0時のドッジボール
傑作、名作の多い成瀬だから
ついつい埋もれがちになってしまっているが
間違いなくコレも傑作<銀座化粧>
映画って
全人生を見せる大河ドラマでない限り、
長い人生のほんの一片
ほんの断片を描くもの
ただし人生における強く印象に残るエピソード
それを90分に収めて描く
ツカミがいいね
主人公(田中絹代)の人生に
重しとなっている男(愛人)が金をせがんでいる
せがんで取った金から
帰り道すがら会った子に小遣いを渡す
「おじちゃん、ありがとう」
本当は父親だ
母は夜の街で働いているので
いつも寂しい想いをしている子供
父のことも知らず不憫な子に小遣いを渡し
こんど船に乗ってお台場の向こうまで出ようと約束する
そして
シーンは主人公の働くクラブ
小さな女の子が客に歌を聴かせ金をもらっている
「何歳だい?」と客が訊ねる
「8才」
驚く客は歌のうまさに驚いているのではなく
当然年齢に驚いているのだ
夜の街には
母と子の抱える悲しい物語が幾つもあるはず、、、
成瀬は語りの名人
何をもって「語りが巧い」かが分かりやすいのがこの作品
母親が新しい幸福を手に入れようと明るい兆しが見えたところに
子供がいなくなったという連絡を受ける
子供がいなくなるシーンは
観客だけが不安になるような編集処理がなされている
観客をミスリードして不安な感情を湧き起こすのだ
一方で
母の新しい幸福が手から離れていく模様が並行して描かれる
観客は主人公の不運を二重で見せられる
しかも、その先にあることは観客だけが感じている
これだね、語りだね
観客をぐいぐい引っ張っていくショットの連続
脚本だけでなく
演出だけでなく
編集、カット割りの巧さ
音楽の当て方の巧さ
是非観て欲しい
成瀬巳喜男の腕を堪能できる一本、、、