たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

カハラ、、、Rest In Peace(安らかにお休み)-2

 

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東大の担当医は漢方や鍼に否定的だったが、妻は友人から以前聞いていた「鍼治療」に連れていきたいと言う。友人は「最後まであきらめないで」と妻に声をかけた。

 

ところがこの医者が厄介そうで、「変わり者だから」「頭がいかれているから」「頭がおかしいと思って相手にしないで」「それでもハイハイ言って、決して反論しないで」と友人から助言をもらった。ネットで調べてみると誰もがその腕を認めるものの、人間性に関しては否定的な言葉しか見当たらない。しかし2才の時に癌の診断を受けた犬を19歳まで元気に生かしたり、二度と歩けないと決めつけられた犬たちを歩けるようにしてきた。何度も奇跡を起こし全国から愛犬を連れて人々が訪れている。「クレイジーだがゴッドハンド」ボクは密かに『どんな奴なんだ』と興味を持った。

 

初診の時は、今までの経過や症状を細かく事前に書いて行かなければならないのだが、沢山書いても怒られるし、少なくても怒られるらしい。どっちみち怒られるようだ。ボクは1枚半にまとめて書いて提出し、控え室で次の順番が来るのを待っていた。すると前の患者が終わっていないにも関わらず扉が開いて「これじゃダメなんだよ!」と言いながら血相を変えて先生が飛び出してきた。「オーナー(飼い主のことをこの先生はそう呼ぶ)がね、こんな気持ちじゃ受けられないよ」ボクが書面で「痛みや苦しみを与えず逝かせてやりたい」と書いていたことに怒っているのだ。「そういう病院(緩和ケア)にいけばいい、うちはそういうとこじゃない」と言うのだ。自分を信じない者は診たくないという訳だ。でも、ボクはここで感じた。こいつは俺を試していると。友人からは「反論してはいけない」と言われていたが、ボクは控室の席から立ちあがり先生の眼前に進み出て「先生ねえ、ボクは先生のことを知らない。でもゴッドハンドだと聞いて藁をもすがる想いできたんですよ。ゴッドハンドなんでしょ、ラク見せてくださいよ」そう迫った。すると先生は態度を軟化させ「まあまあ腰かけてください」と言って診察室に戻って行った。

 

よその医者は癌を理由に言い訳しているんですよ」前の患者に話している言葉は控室のボクたちの耳にも届いたように、狭い部屋でもマスクなしででかい声で喋り続ける。前の患者はときおり涙を流している、余程切羽詰まった状況でここにやって来たのだろう。前の患者が終わり順番がボクに廻ってからも先生は1時間半ノンストップで喋り続けた

「主は云った」と度々口にするようにキリスト教の信者であるようだ。日曜日と火曜日は必ず教会に足を運び数々の気付きや導きを得るようだ。治療の話に関しては比喩的に政治、経済、世界情勢、戦争、コロナ、サッカー、ダチョウ倶楽部、歌舞役者に絡めて喋る。話すとか語るではなく、あくまでも「喋り倒す」感じだ。これを「いかれた」ようにほとんどの人は思うのだろうが、ボクは結構面白く話を聴いていたし、実際共感できる良いことも言う。鍼治療に要した時間はほんの5分程度、ほかはノンストップで喋り続けた、いや喋り倒した。

 

それにしても東大が「死を待つだけ」の結論を示したのに対して、この先生は痛みを和らげるどころか、本気で癌から生還させようとしている熱意を感じた。「よその医者は癌を理由に言い訳しているんですよ」と言い切ったように、自信と覚悟と諦めない気持ちがある。早ければ余命二週間といわれていたのに、急に明るい光が見えたように感じた。クセが強い独特なキャラな先生だが、ゴッドハンドよ、俺に奇跡を見せてみろ!