今や
シネフィルを自称する人たちの合言葉は「サタンタンゴみた?」
<旅芸人の記録>倍の尺で、
<旅芸人の記録>の1/4の物語、、、
土地を捨て「約束の地」へ目指すことを決めた村人たちが
持って行くには大きすぎるタンスを壊しているシーンで
タンスの持ち主が呟く
「ジプシーたちに奪われてしまうくらいなら壊してしまった方がマシだ」と、
いかにも
幸福を手にできない人たちの思考だ
そして、エネルギーの使い方も間違っていると思ふ。
そしてファーストシーンは
小屋から抜け出した牛たち
少し離れた場所でまた牛たちは止り、肩を寄せ合った
本編の村人たちは
冒頭のシーンの牛たちで間違いない
牛に置き替えて村人たちを表現した、、、
こんなことを言う人がいた
「世の中には二種類の人間がいる。タルベーラを見たことがあるか、ないか」
若干56才で引退を表明したタルベーラの最高傑作として
映画史に名を刻みながら
日本では今回が初公開となる7時間18分そして約150カットの大傑作
150カット、しかも7時間超え作品で、、、
ハリウッドのアクション映画なら30秒で費やしてしまうカット数かもしれない、、、
ほとんどのカットが長回しなのだ
FIX、パン、横移動、ズームアップ、ドリーアップ、ドリーバック、クレーンアップ
しかし
とくに興奮させられるようなトリッキーなキャメラワークはない
そして、とにかく長い、、、
たとえば3倍速で観るならば
丁度良いくらいの2時間半の一作品として収まるはずだ
ところがワンカットに時間をかけるから
そろそろカット割るかなと構えていると、そうでもない
それならば何かが映し出されるのかと期待して我慢強く待つが、そうでもない
たんに対象の被写体を映し続けるだけ
それが辛抱を強要されるほどの長さなのだ
その狙いを想像してみれば
これは例えば<ストレンジャーザンパラダイス>のように
シーンの切り替わりのたびに黒味を挟み込んで
シーンの印象を観客の脳裏に植え付けるような
そういった魂胆(技法)だと思うのだが
それにしても長すぎる、、、
本編は12章からなる
タンゴのステップのごとく「6歩前進して、6歩後退」なのだとの解説がある
前半の6章は
ある1日を登場人物たちの様々な角度からの視点で描かれる
とくに第5章の少女のエピソードが印象深い
夫を亡くした母親は村の人々にカラダを売って生活を凌いでいる
客が訪ねてくると当然娘は外に出される
しかし外で雨が降っていれば納屋に逃れるしかない
そこで見つけた猫を虐待する少女
しまいには毒をもって殺してしまう
その後へそくり(兄に金のなる木とそそのかされる)を埋めた地面を掘り返すと
彼女の金は全て兄に盗まれていた
死んだ猫を抱えたまま
雨の降りしきる中
月明りもない闇を彷徨う少女
ふと
居酒屋の灯が見えて近づくと
泥酔した大人たちが踊っている、、、サタンタンゴ
まるで
悪魔に踊らされているかのような村人たちの姿を覗き見た少女が
次にとった行動とは、、、
この章だけ切り離して
ひとつの短編としても成立する
すこしブレッソンにも似た
<少女ムシェット>を彷彿させるような一編だ、、、
居酒屋の店主のエピソードも娘のものに近い
1年前に死んだと噂されていた男が生きていて
もうじき村に戻ってくるそうだと耳にする
以前その男にひどい目にあわされた記憶が蘇ると共に
不安から恐怖が生まれ
店のバックヤードで次つぎと物にあたり破壊する店主
しばらくして落ち着きを取り戻し
片付け始める
貧困、孤独、不安、そして恐怖
それから生まれる激しい怒り
少女も店主も同じようだ
しかし
ほかの多くの人が自分の意思を伴わず
誰かの責任にして、誰かに身を委ね人生を委ねる
悪魔はそれを見逃さずに付け込んでくるのだ
それにしても
フィルムで撮影された原版をデジタル処理した映像が美しい、、、
再現性が凄い
オープンセットなのだろうか
この常に降り続ける雨にぬかるんだ地面を
観客も付きあわされ歩かせられることになる7時間18分、、、
当初は苦行を覚悟したが
二度のインターミッションを挟んで
特別な映画体験を味わうことができた、、、
日本初公開だから
本来なら今年のナンバー1なんだろうけど
昔は<市民ケーン>にしても<独裁者>にしても<大地のうた>にしても
何十年も前の映画であっても
日本初公開を基準にしキネマ旬報はベスト10を選考していたが
最近は様々なメディアや鑑賞方法の多様化で
たとえ日本初劇場公開であっても選考を躊躇する傾向にあるので
これを選考の対象にする評論家がどの程度いるかは分からない、、、
PS
たとえば昨年のボクのナンバー1は何十年も前のブニュエル作品<砂漠のシモン>だったが、それは疑いもなくナンバー1作品に相応しいし、日本初公開なのに、キネ旬選者は誰も投票しなかった、、、
そうかと思うと、名作<ワイルドバンチ>は公開年での評価は33位、同じく大傑作レオーネの<ウエスタン>は55位だった、、、これってどう?