指摘されることの多いあのスピルバーグ同様にマーティンマクドナーは筋金入りの「肉体損壊フェチ」だ、この映画でも他の彼の全作品でも人間の身体の部分的な欠損を必ず描写している、、、そして「窓」本作では多用しているが、これも彼の全作品で窓越しのショットは好んで撮られている、窓は人と人とを隔てると共に相手を覗く、相手の感情を知ろうとするシーンに使われるが、今回は飼っている馬が外から窓を通して主人公を覗くショットが非常に良かった、、、この映画では動物たちが人間を見つめている、特にマクドナー作品には必ず「犬」が登場するが、彼は犬だけは決して殺さない、変態野郎でも一応そんなポリシーで映画を撮っているようだ、、、そして主人公二人の「対峙」これもマクドナー作品の芯、同監督の同じ二人の主人公で撮った<ヒットマンズレクイエム>を観ていれば尚更その想いは理解できるはず、、、そして最後に「神」これも必ずマクドナーは自分の作品に入れる要素、今回は対岸のアイルランド紛争との対比を取り上げて語る人が多いがそれも対比の一つであるだけで、それよりも「神」に対する不信あるいは天の啓示への疑問こそがこの映画の中心にある、まるでベルイマンのように、、、そんな訳でマクドナー作品は全作品を鑑賞したうえで<イニシェリン島の精霊>を鑑賞することを強くお勧めする、そうでないとこの作品に対する理解は乏しくなる、、、あ、ちなみにマクドナー、<セブンサイコパス>でも<その男凶暴につき>をインサートしていたように大の北野武ファンだ、、、
とはいっても、今年のアカデミー賞の本命と言われているが、正直獲れないと思う、、、オスカーから遠い作風だ、もしもマクドナーに獲らせるなら<スリービルボード>の時にこそ獲らせるべきだったことになってしまう、、、そして何といっても、ロケーションは美しいのに、これといった優れたショットがない(「綺麗」と「いい画」は違う)これはダメだ、きっと景色に見とれて撮影賞をあげちゃうかもしれないが、その賞に相応しい画が何処にあった?と、もしも賞を獲ってしまったら問いたいね、、、
バリーコーガン、、、助演賞にノミネートされているね、<グリーンナイト>でも抜群の存在感で、きっといつか然るべき賞を獲れる人材とは思っているが、早くもそのチャンスが巡って来た、、、
この映画で面白いのは、例えば妹がシェリー酒が好きなようで何度もセリフに登場するが結局一度もシャリー酒は映し出されない、本も好きだそうだが本も読書シーンもない、鞄に本が入らないと言うセリフもあるがその時も本は映し出されない、午後2時とか時間に関してのセリフも度々あるのだが時計は一度も映し出されない、人口の少ない島ではあるが子供の姿は見掛けることはない、、、なんかねぇこういうところは面白い監督だよね、優れた監督の素養があるよ、、、
最後に
犬がハサミを咥えて外に持ち出そうとするシーンが可愛くてこの映画で一番良かったなぁ、、、
3.5点