たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

Mさんの話し

その頃
ボクは
近所で
会社で使うちょっとした土地を探していて

目を付けたのが
Mさんの土地

Mさんとは直接話したことはないが
このあたりの土地持ちだ

しかし
町内のMさんの評判はよろしくない

先代は積極的に町会に協力し
地域のために尽力したそうだが
その跡取りは感じの悪い
極力接したくないタイプの人と言われるほどの評判だ

でも、
ボクはあの土地が借りたい!

「どこに行けば会えますか?」と
近所の人に訊ね
「まじで会うの?」と怪訝な表情をされながら
週に3日ほど現れるといわれる事務所の場所と
たぶん午後の1時くらいなら会えるかもしれないとの情報を得て
その事務所の前に立った

情報のとおり
Mさんは午後の1時に事務所に現れた

事務所の前に立っている
見知らぬボクを見てMさんは

「なんだ、オマエ」

Mさんは下から覗き込むような視線で
上からものを言うような態度で一声を発した

ボクが自己紹介すると

「おぉ、オマエのオヤジさんにはガキの頃よくイジメられたよ」と言いながら
事務所に招いてくれた

ボクが土地についてお願いに来たことを告げると

たくさんの土地や建物を持っている人らしく
不動産について色々喋り出した

その中で印象に残っていること

「オマエよー、あそこにボロビルあるだろ
あれオレの建物なんだけどよー
トラックが通るたび地震みたいに揺れるし
こないだなんか揺れで窓ガラスが割れやがってよ
でもな、ギリギリまで建替えねえよ、オレは
コップに酒つぐだろ
皆はよー、だいたい7割くらいで、呑んじまうんだよな
でも、オレは、呑まないね、ぐっと我慢するんだよ
表面張力でグラスの上に酒が膨らんでも呑まねえぜ
それでな、その酒がこぼれて枡に溜まったその酒だけを呑むんだよ
それが利益だ
ところが、まだまだ住めるのによ
みんなたっぷり利益が出る前に建替えちまうんだよな
7割くらいで酒呑んじまうんだよ
オレからしたらバカな奴等にしか見えないねえ」

面白い話だなぁと、思いつつ
どこかで聞いたことがあるような話だとも思った

数か月後
映画<マルサの女>を久しぶりに観たとき分かった!
そ!山崎努のセリフだった、同じ長セリフがある!
まんまMさんが話した話しだ!

そしてMさん
ボクが借りたいと言った土地について
重い口を開いた

「実はよー、あそこ来週から工事が入ってコインパーキングになっちまうんだよ」

ボクは
ガッカリした表情をたぶん浮かべた

「でも、もし、もし叶うなら、ボクに貸してください!」と
そういって事務所を去った

後日
Mさんの担当の不動産屋から電話が入った
「Mさんの土地ですが、あなたに貸すそうです」

「え!でも、それはありがたいけど、もう契約が決まっていたそうな」

「そ、そうですが、あなたが帰った後、Mさん随分考えていましたよ、そして『若い奴が一生懸命やっていて、頭下げて、貸さない訳いかねえだろ』と、言ってました」

町内で煙たがられ、嫌われ、極力接したくないとまで言われる人は
ボクにとっては「いい人」だった、、、

それから
盆暮にはMさんに必ず酒を贈った
そのたびにあの酒の話を思い出した

ちなみにMさん
その数年後に亡くなった

その時にはバブルの頃からのツケが追い付かず
莫大な借金を残しての他界であった、、、

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映画<マルサの女>より