行方不明になっていた夫が
ホームレスの姿で街に現れた
男は記憶喪失になっていたが
妻は記憶を蘇らせようと
いろいろと手を尽くす
食事に誘い
食後にチーズを奨める
夫の好きだったブルーチーズ
季節ものなので
なかなか手に入らず
運よく見つけた
メーヌ産の硬めの夏チーズ
そして、夫は言う
「この味は憶えている」と、
脳の記憶と違って
五感というのは、覚えているのだね
味覚と共に
音楽も覚えている
好きなオペラの歌
味にしても音楽にしても
それをどこで知って
何があったかは覚えていなくても
そのものの感覚は忘れていないのだね
食後
夫婦で踊るダンスは涙を誘う
そして
帰っていく夫の後頭部に手術跡が
それはもしかしたらゲシュタポによる
作為的な手術だったのか?
去っていく背後から
名前を呼び止めると
両手を挙げて歩を止める男
悲しい過去の記憶が蘇ったように反応する姿に
涙する
その後
男は車に轢かれ死ぬ
女は
夫は死んでいないと聞かされ
希望を持たされる
「きっと冬になったら戻ってくるわよ」