ボクの尊敬する先輩から
しばらくぶりに電話が入った
この先輩は
テレビCMのディレクターであり
映像作家であり
直木賞までは手に届かないが
賞もとるほどの作家である
そして
何より会話が面白い
実話なのか、作り話なのか
いずれにしても脚色されたであろう
その語り口が絶妙で
けっして滑らない、、、
電話に出ると
ふつうなら「久しぶり」とか「ご無沙汰」と言うんだろうけど
この先輩は真っ先にこう云う
「小津の<秋刀魚の味>を観たのだけど、
なんでそのタイトルなんだ?
そんなこと訊けるのはオマエぐらいだからな」
こういう入り方をする
ツカミが上手いのだ
もしかしたら
単に電話を掛けるのが照れ臭いので
テレ隠しでこういう話から入るのかもしれない
<秋刀魚の味>のタイトルについては諸説あるが
本人小津安二郎は明確には答えていない
「秋に公開するから、旬のサンマですよ」
煙に巻いたような答えが面白い
「食」にこだわりのある人らしい答えだ
本人が答えないのだから
真相は永遠に闇の中だが
ああだ、こうだ、詮索する楽しさが小津ファン、映画ファンにはある
「サンマだから美味しいけれど、苦みもあるとか、いろいろ言われていますけど、ボクもよく分からないのです」
「そうか、、、」
先輩は
とくにボクの答えにガッカリすることなく
その後
次から次へと面白い話を披露してくれた
やはり
先輩は映画のことなどどうでもよくて
久しぶりに話がしたかっただけなのだなぁ、と、思ふ、、、