たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

「何者」、、、PM奮闘篇その1

映画の世界では監督
テレビやCM業界ではディレクターというが
 
その補佐役を
映画の世界では助監(助監督)
テレビの世界ではAD(アシスタントディレクター)
そしてCM制作の世界では「PM」(プロダクションマネージャー)という
 
入社してその初仕事が
長靴履いてスコップ持って
土を掘り続けるドカチンだった
とてもクリエイティブな職業とは思えない、、、
 
鬼軍曹のT氏に連れてこられた
広い広い畑を1キロほどにわたって
2mの深さに掘り続けろと指示された
 
いまならショベルカーで掘ればいいことだが
T氏の狙いは新人3名を鍛えることにあったと思う
T氏の口癖は「兎に角24時間立ち止まるな!走り回れ!」だった

高校時代にサッカーの選手だったT氏は
きっとサッカーの監督に言われていたのだろう
「90分間走り回れ!立ち止まるな!」と、、、
 
穴掘りは5日間ほど続いた
ポールニューマンの映画<暴力脱獄>のように
あまりにも過酷で
しかし夜は退屈だったので
T氏の目を盗んでは
遠く離れた町まで抜け出し遊んだ
疲れきっていても「遊び」は「別腹」のようである
 
ところで何故穴を掘り続けるのか
それは撮影が始まると
その意味が分かった
 
畑の上を走る車の下に
ミッチェルという昔は軍事用に作られた小型の35ミリのカメラをセットし
地面と車の間のカメラが揺れでぶつからないように地面を硬くする必要がある
そのため一旦地面を掘って
その中に平台(学校の教壇)を何層にも埋める
最後にほんの少し土を盛って平台を見えなくする
そうすることで車は土の上を走っているように見えるが
実はステージの上を走っているように地盤のしっかり硬いものとなる
 
これは最初の経験で
その後さまざまな現場で
プロの工夫や技術をいくつも体験できた
 
その当時はビデオが編集の現場や最終納品形態として登場してきたが
まだまだ撮影に関してやラフの編集はフィルムで行われていたので
映画バカとしては毎日が楽しく興味深いものだった
 
社内にはボクも含めて3人の新人がいるが
仕事のない者は1か月何もしないような奴もいる一方
自分は10本ほどの作品を同時に抱えることもあったので
すごく理不尽な気がする一方
それだけ多くの仕事を与えられる喜びと
沢山の現場を経験できることは
のちのち自分の役に立っていった
 
そんな忙しい日々を送っている頃
新しい仕事の打ち合わせで
初めてのディレクターを紹介された

それは映画監督の黒沢清だった
 
彼は黒の上下のライダーズスーツに黒いメットを被って
大きな単車を走らせ現れた
 
ボクの会うまでの印象は
大人しくクールな人だったので
バイクとかライダーズスーツは意外だった
 
そして話し始めると
よく喋る人だったのも予想外だった
それでも興奮して話が止まらないようなタイプではなく
あくまでも「語る」雰囲気があった
 
はじめての打合せでは<ダーティハリー>の話を盛んにしていた
どのシーンの何はどんな効果があったとか
映画における「黒」について持論を展開していた
ただそこにある「黒」つぶれた「黒」ではなく
ドンシーゲルの「黒」は、きちんと「黒」として存在して撮らていると、、、

イメージ 1
 ボクの若い頃は佐藤健のようにイケメンだったとしても
本文とは関わりありません

その日の打合せの後に監督に声を掛けた
ボクは数年前のことについて話したかったのだ

自分のことを覚えているか?
ま、気を遣って「覚えている」と言ってはくれるかもしれないが
そんなことより
手紙を頂いたことを「凄く嬉しかった」と伝えたかった、、、
 
黒沢清は答えた
「覚えてるよ、セリフがすごく面白かったよ」
 
なんか
ウソだとしても、スゴク嬉しかった、、、