イーストウッドの<ミリオンダラーベイビー>はチャンピオン戦を優勢に進めていた主人公が栄光の座に手をかけた瞬間絶望の淵に落とされる映画だ、、、当時、この映画について知人の若者に感想を求めたら「ぅぅん、微妙ですねぇ、せっかくのボクシング映画なのに、なんか暗くて、スッキリしなくて、正直あまり面白くなかったっす、、」、、、おいおいおいイーストウッドが<ロッキー>みたいな映画を撮る訳ないだろう、ドラマが転調してからがいかにもイーストウッドなのだから、普通の娯楽映画の監督と同列に語るなよと、その若者の感想にガッカリしたものだ、、、そして今回鑑賞したこの映画も、クライマックスの激闘の末に栄冠を掴むような類の映画ではない、それを期待するボクシング映画ファンには全くお薦めできない、、、
あらすじ
しかしこの映画の主役の子、最近やたらよく出てるよね、正直美人系の女優でないのに映画でもテレビでも主役張っているし、、、岸井ゆきの、今年のキネ旬は<神は見返りを求める>も含めて、この子で決まりかも知れない、、、この今年主演した2本の映画、まったく同じひとりの人間が演じているとは思えないのだ、凄すぎる、、、
粒子が粗い、やはり16mmのフィルムで撮られたようだ(たしか本家<Keiko>も16だった)、あの安っぽいけど懐かしく暖かみのある夕景、この夕景を撮るだけのために35でもデジタルでもなく16を選んだ気がする、、、せっかくのマジックアワーでも、あれが16では精一杯だ、それは丸で、マリックから始まった「マジックアワー至上主義」に対するアンチテーゼに思えてならない、、、
細かい音、ペンを走らせ、グラスを置き、氷をかみ砕く、そんな音から始まる、そして場所はボクシングジムに切り替わり、縄跳びの床を叩く音、サンドバッグを殴る音、コーチのミットに主人公のグローブが叩きこまれる音、その間セリフらしい台詞はなく、ボクは10分ももたずにKOされた、音の聴こえない主人公の音の強調された映画、、、年に一本あるかどうかの日本映画、あの大好きな<百円の恋>が幼稚に思えてきた、、、
P.S.
劇中、ジムの会長から主人公に渡される赤いキャップ、あれはトニースコットが愛用していたタイプのキャップらしい、この映画の監督三宅唱はトニスコのファンだそうだ、、、そう思うと、まるでトニスコから監督に贈られたキャップという監督の妄想がシーンになっているように思えてくる、、、
4点(今年を代表する映画を観ておきたい人、普通のボクシング映画を期待しない人にお薦め)