たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

小説/Mとのこと(1)

 

 少し肌寒くなりだした師走ちかい頃の夜、大学の先輩(といっても大学の近所の雀荘で知り合った年上の友人)に連れられて初めて行ったのが新宿のアルタ(※)の裏にある雑居ビルの地下にあった「ホワイト」という名のパブだった。店に入るとすぐにバニーガール(※)の恰好をした女の子がウエイトレスをしているのが目を引いた。みんなスタイルが良く若くて美人だ。バニーガールはあくまでも給仕が専門の仕事で、客の席に座ったり、会話の相手をすることはなかった。またその店にはホステスのように客の席につく女の子もいなかった。席に通され、僕がバニーガールたちに目を奪われている中、彼女等には一切見向きもしない先輩が真剣な表情で話し出した。

 

 「実はな、Hにお願いがあるんだ」

 学生の友人の「お願い」にロクなことはないので、僕は身構えた。おおかた、金を貸してほしいとか、新興宗教とかねずみ講とかマルチ商法が相場だ。

 「ちょっと困っていてな」

 『ほら、きた』と更に僕は身構えて警戒した。

 「話してなかったと思うけど、うちは、うちって、うちの父親なんだが、蒲田で店をやっていて、色々あってスタッフがゴッソリ抜けてしまったんだよ。俺も手伝っていたんだが、とてもとても手が足りない、人数が揃わないと店のカッコがつかないんだ」

 

 「色々あって」も気になるが、そもそも「何の店」なんだろう?

 

 「しばらくの間だけでもいいんだ。数か月しのげればまたその間に態勢を整えられるから、とりあえず急場を凌ぎたくて、Hの力を借りたいんだ」

 「でも、俺、今、ずっと続けてるバイトがあるんで」

 「何やってんだよ?」

 「映画のフィルムを東京から大船まで車で毎日運んでるんですよ」

 「なに映画って?」

 「大船に松竹の撮影所があるんですけど、そこで撮影されたフィルムを現像所に運ぶんです」

 「ふーん、毎日?」

 「はい、土日以外は」

 「何時から何時?」

 「だいたい夕方の5時半くらいからスタートして、8時とか8時半とか、早いと7時半頃には終わりますけど」

 「8時半にどこで終わるの?」

 「五反田です」

 「いいじゃん!いいじゃん、いいじゃん!」

 「え?」

 「うちの仕事に間に合うよ」

 「え、先輩の仕事って何ですか?」

 「え、ホストだよ。ホストクラブ」

 

 蒲田じたいも風俗産業の店が多く、多摩川を越えた隣町の川崎からもトルコ風呂(※)やその他様々な風俗嬢が仕事を終えた後に訪れるには蒲田はホストクラブに適した立地なのだと先輩は熱心に説明していたが、実は僕は一人のバニーガールに目が釘付けだった。すると先輩もそんな僕の様子に気づいたらしく、近くを通った馴染みのバニーガールに声をかけた。

 「あの子新人なのかな?」

 「え」

 「こいつ、あの子のことが気になっているようなんだよ」

 するとバニーが先輩の視線の先を探って

 「あ、Mちゃんね、もう一か月くらいになるんじゃないかしら、とてもいい子よ」

 「って、言っても、席に呼ぶことも出来ないし、な。それにあの子はペチャポイっぽいから、俺はボインなお前の方が好きだぜ」と先輩はそのバニーの胸に触ろうとするポーズをしたので、その子は素早く遠ざかった。

 

 先輩からの申し出にはまだ返事をしていなかった。しかし、僕は今度はサーフィンの仲間クニを誘って、あの店「ホワイト」に顔を出した。店に入ると、こないだ先輩がからかったバニーガールが寄ってきて

 「あら、いらっしゃいませ。今日はあの人と一緒じゃないのね」

 その子は意味深な微笑みを向けながら僕と友人を席に通し、僕たちはバーボンを注文した。店内を見渡すと奥の方にMを見つけた。さっきの子がワイルドターキーのボトルと氷を持ってテーブルに来て、その際に名刺があればほしいと言ったので、僕は僕の家の電話番号が書いてあるサーフィンのサークル自前の名刺を渡した。家にはたいてい弟がいるので何か電話が入ればポケベル(※)を鳴らして僕に知らせてくれる。

 「ふーん、バブルス(※)っていうんだ、サーフィンの会なのね」

 再びMを探すと、Mはさっきいた場所にはもうおらず、トレイをもって酒を運んでいた。ショートカットの髪はツヤツヤと輝いていて、とても小さな顔に前歯が二本竹内まりやのように少し大きいのが印象的で、笑うとますます可愛い。しかも童顔だから、顔だけを見ると身体の小さいイメージだが、実際はスラリと背が高く網タイツの脚がとても長く綺麗で、その腿に程よく肉がついていてセクシーでもある。

 「気に入ってんのか、あの子」

 友人も気づいたようで

 「あ、ちょっとタイプなんだ、脚も綺麗だけど顔も可愛い」

 するとMの方もちょくちょく僕の方を見ていることに気づく。たびたび目が合う。

 「でもな、席につくわけでもないし、呼ぶことも出来ないから、お近づきになるにはなかなか難しいよな」

 「うん」

 

 それから数日後の深夜、ボクはいつものようにクニと渋谷のはずれ(今では裏渋と呼ばれるようになった辺り)にある小さなバーで飲んでいた時ポケベルが鳴った。折り返し店のピンク電話から家に電話をかけると高校生の弟が電話に出た。

 「女の人から電話があったよ、電話してくれって」

 そう言うと、翌日にアメフトの試合があるため既に寝ていたのを起こされて不機嫌な弟が電話番号を教えてくれたので、ピンク電話のそばにあった紙と鉛筆でメモし、さっそくその番号に掛けてみる。

 

 「Hですが、」

 「あ、ありがとう、ホワイトのJです。っていっても分からないかぁ、こないだ名刺もらった女です」

 

 僕とクニはJに呼ばれ彼女の部屋を訪れることになった。タクシーで、聞いた住所を目指す。

 「いいことだよな?」

 「悪いことじゃないよな?」

 女に呼ばれてヒョコヒョコ出てきたが、彼女は何で僕を呼ぶのか?

 

 呼ばれた住所は参宮橋の小洒落たマンションの一室だった。チャイムを鳴らすと「はーい」と高い声と共に彼女がドアの向こうから化粧っけのない顔を出し、ニコニコしながら「来たね」と笑った。

 中に入るともう一人マイケルジャクソンのスリラーのLPのジャケット写真がプリントされた黒いTシャツとやはり黒いスウエットパンツにグレーのパーカーを羽織り、黒いニット帽をかぶった女の子がいた。その子と向かい合わせて座って、あらためてその子の顔を見るとMだった。すこし驚いてJの方に目をやると、Jはニヤニヤして笑った。プライベートではあるが、ふたりは華やかな水商売の世界で働く女性とは思えないほど、派手な化粧や服装と無縁だった。

 僕たちはすぐにビールを飲み始め、JとMはビールをトマトジュースで割って飲んでいる。そしてトランプを始めた、ダウト(※)。負けた者には罰ゲームが待っているのだが、その罰ゲームを何にしようか一旦トランプの手を止め、話し合い盛り上がる。過酷な罰ゲームを言い合うが、もしも自分がその罰を受けることになったら大変だと思いながらも、やるからには厳しい罰ゲームにしようと、怯えながら提案し合って大笑した。そして、トランプはクニが負けた。と、いうか、ワザと負けたと思う。クニはそういう奴なのだ。優しくて、場を盛り上げられる奴なのだ。

 

 僕とJとMはコンビニのガラス窓を通して外からクニとレジの店員の様子を見て爆笑した。仮面ライダーのお面をつけて白いブリーフ一丁のあいつが健康ドリンクを一本買った。レジではドリンクを差し出しながら「最近、疲れているもんですから〜」と仮面ライダーは言わなくてはならないのだ。それに対して店員が何か言っていたが僕たちの所からは聞こえなかったので、店から出てきたクニにMがトレーナーを肩にかけてあげている時、尋ねると

 「おつかれさま、でも警察に捕まりますよ、気を付けてくださいね。だってさ」というので、僕たちはまた大笑いしながら小走りに部屋に戻った。しかし、もしも女の子のどちらかが負けていたら、いったいどうなったのだろうか?

 

 Mが帰らなくてはいけないと言い出したので、僕が彼女を送っていくと言った。近所だそうだ。

 「送ったらまた戻って来るから、そしたら一緒にタクシーで帰えろうぜ」とクニに告げると、

 「帰って来なくてもいいぞ~」とクニがウィンクしながら言ったのをJも見ていて、jは困った表情を浮かべながらも口元は微笑んでいた。

 

 Mの部屋はJの部屋から歩いて10分ほどだった。マンションの外で僕は尋ねた。

 「どうして今夜、僕はJに呼ばれたんだろ?まさかトランプの人数合わせじゃあるまいし」と、

 するとMが答える、

 「私がJに頼んであなたを呼んだの」

 「ぇ」

 「会いたかったから」

 Mはいつも甘えたような口調で話すが、それが僕をそそらせる。そしてその晩、僕はクニの待つJの部屋には戻らなかった。

 

 彼女の部屋に招かれ、ベッドを背もたれにしてMを眺めていた。Mもコーヒーを淹れながら時々僕を見て微笑む。二つのコーヒーカップをちゃぶ台の上に置いて彼女と僕はしばらく無言だった。Mは恥ずかしそうに上目遣いで僕を見て、互いに目が合うとまつ毛をパタパタさせる。

 「こっちにおいでよ」と対面で熱いコーヒーカップを両手で挟んで持っていた彼女を呼ぶと、Mは部屋の灯を消し、レースを引いた窓の外から僅かに感じる明りを頼りに僕の隣に並んで座り、僕は彼女の顎に下から指をかけて少し上に向かしてから軽く唇で唇に触れてみた。

 彼女は「うん」と甘えたような声を出す。「うん」はもしかしたら「くん」かもしれない。そうだ、おそらく「くん」だ。子犬が甘えて発する声を真似ているのかもしれない。もう少し強く唇を重ねてみたら、恥ずかしそうに唇を離して下を向く。ゆっくりと彼女のTシャツに手をかけてまくると、また「うん」とか「くん」とか言いながら両手でブラジャーで隠れた胸を覆う。その手をほどこうと最初は軽く触れたが抵抗感があったので、もう少し強くどかそうとしたら、横を向いて隠していた手の力を抜いた。僕はその隙をついて彼女の胸に顔を埋め、抱き着くように両手を廻してブラジャーに手をかけ外すと、彼女はもう胸を隠す手立てを失い、あきらめて僕の頭を抑え胸に押し付けて、あくまでも僕が胸を見れないように仕向ける。顔を胸に抑えつけられながらも、スウェットごと彼女の下着も脱がし、自分も下半身を脱いで彼女の中に急いで入った。入った瞬間、彼女は「くん」と声を発した。そして、僕が腰を動かすたびにアニメのような甘えた声質の呻きを僕の耳に心地よく響かせた。カーペットで正常位だった彼女の身体を起こして四つん這いに招くと、胸を見られない態勢なので進んで彼女は向きを変え、お尻を僕の正面に向ける。僅かな月の光に浮かび上がった彼女の身体は美しく、アニメの声がそそるので、わざと奥まで突くように差し込んで、その声を愉しんだ。

 

「胸が小さいのがコンプレックスだから、見られるのが恥ずかしいの」

たしかに胸は小さいが膨らみがない訳でもない。

「嫌われちゃうかもしれないし」

「そんなことないよ、だって男のチンチンが大きくなければ嫌うのか?そりゃ、そういう女性もいるかもしれないけど」

彼女は首を振った。

「たまたま好きになった女の子の胸が小さくても、それさえも好きになるんだよ」

これは僕の本心。

 

 翌朝、コーヒーの香りで僕は目覚めた。

 上半身裸の身体をベッドから起こし、何も言わず彼女から渡されたコーヒーカップを受け取り、カップに口をつけると火傷しそうに熱くて焦った。

「熱いっしょ」と彼女が慌てた。

彼女は「っしょ」が口癖だ。この「っしょ」は方言のようだが、とても可愛い。訊くと実家は北海道なのだという。札幌。

 

 「今夜もくる?」と彼女は口先を尖がらせるようにして訊ねた。

 「え、いいの?」と僕が逆に訊ねると、彼女は肩を左右に振って、口を膨らませた。

 言わなくても私の気持ちを分かってと、本当は分かってるくせに意地悪しないでと、そんな感じなのだ。なにか特殊な動物をあやしている感覚にもなる(W)。そして、彼女は何か嫌な時に「イヤだ」とは言わない。何かを要求する時もハッキリ言わず。例の「うん」と「くん」の中間みたいなアニメ声で下から見上げるように僕を見つめ訴えかける。彼女ならアイドルヲタクやアニヲタにはたまらない恋人だと思うが、これが今だからギリギリセーフだけど、だんだん歳をとっていった時、彼女はどんな中年女性になり老人になるのだろうと想像して少し心配した。

 

 「でもね、実は今夜から夜仕事があるんだよ」「毎日ではないから、休みの日には必ず来るよ」と言って、とりあえず彼女を納得させたが、先輩に頼まれて結局受けることにした夜中の水仕事は想像以上の過酷な商売だった。

 

 

 

 

※「新宿アルタ

とくに特徴もない一応ファッションビルだが、タモリが司会をしていたテレビショー「笑っていいとも!」の公開生放送を行っていた場所として有名。また、いち早くビルの壁面に大型街頭ビジョンを取り付けたことで新宿駅東口の象徴としてテレビや映画でその外観を映されることが多い。

 

※「バニーガール」

そもそもは米国の高級クラブ「プレイボーイクラブ(PLAYBOY CLUB)」のウエイトレスの衣装として考案されたウサギをモチーフにウサ耳型ヘアバンドを付け、ウサ尻尾付きの肩出しボディスーツやレオタードなど、身体の線が出る衣装を着た女性。主に飲食店の接客係やテレビのバラエティ番組のアシスタントが着用する場合が多い、いや、多かったが、最近ではテレビで見掛けることもなくなって残念だ(Wikiより改編掲載)こんなセクシーな衣装をいったい誰が考えついたんだ!考えたヤツは天才だ!

 

※「トルコ風呂」

もしくは「トルコ」と呼ばれた個室式特殊欲情、いや、浴場、、、トルコ人留学生の抗議運動によりあっさりと「ソープランド」に呼び名を変えた。

 

※「ポケベル」

80年代前半は単なる呼び出し用の通信機器で、まだ数字などの表示がされず、電子音による呼出音が鳴るだけのため、呼び出された出先の公衆電話などから折り返しの電話をいれることになる。

 

※「バブルス」

その当時はまだバブル崩壊どころか、バブルという言葉もない日本国高度成長期頂点の時代の前夜であった。サーフィンのチーム名は波の泡(スープ=崩れた波)からとった。

 

※「ダウト」

各々がカードの数字を読み上げながら裏返しに出していき、それがウソである(読み上げられた数字が出したカードの数字と違う)と思った参加者が「ダウト!」と叫んでウソを暴くのが特徴のゲームである。ダウトから訛って、また座布団の上に次々とカードを出していくことから関西では「座布団」と呼ばれているそうだ。(Wikiより改編掲載)マジか?

 

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