たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

小説/Tとのこと_あの熱かった夏(3/4)

(3)年上の女/はじまり

 

 あれは、僕と守の大浜でのテント暮らしも終わりに近づいていた頃だった。その夜は下田の駅近くでラーメンをすすった後、駅前で話し込んでいた二人組の女の子(女の子といっても僕たちより年上だった)を見つけた。その一人がTだ。僕は車をふたりに近づけ、守が助手席の窓のハンドルを思い切り早く回して開けて(こういう競技があればきっと守が世界チャンピオンになるだろう)声をかけた。

 「いい海があるから行こうぜ!」

 ふたりは僕と守を数秒間交互に見定めてから車に乗った。

 僕たちがテントを張る大浜の隣りに田牛という浜がある、そこに向かった。ここにはサンドスキーがある。海から続く狭い砂浜が崖に沿って砂地が続き砂の山を形成している。4人で砂の山を登り、見つけたダンボールの切れ端をソリ代わりにして競争して下まで滑った。守が派手に転倒し砂だらけになって笑った。その笑った前歯に沢山の砂が付いているのを見て僕らも笑った。それから近くの「龍の洞窟」(※6)に行った。その名前の由来は知らなかったが、僕が作り話で適当に説明して訊かせたら、二人は神妙にその出鱈目な説明に耳を傾けていたのが思い切り可笑しく吹き出しそうになった。洞窟上部はハート型に空洞になっていて、そこから差し込む月光が海から注ぐ海水を照らし、夜なのに水面がキラキラと輝きとても神秘的で美しい。その美しさを背景に皆んなでバカチョンカメラで記念写真を撮ってふざけた。その皆の笑い声が反響して跳ね返ってくるのが面白くて、ヤッホーから始めって順番に違う掛け声をかけるゲームのようになった。

 H「ヤッホー」T「カッコー」Tの友人「ガッコー」守「アッホー」H「オマエガナー」

 洞窟から外に出る時は足場が悪い岩場を慎重に登らなければ転んでしまう。足を踏み外しそうになったTがとっさに前を行く僕の肘につかまった。僕は彼女の手を取り支えながら表に出た。そして、外に出てもTの手を離さず手をつないだまま車まで向かったが、後ろを振り返ると守とTの友人も手をつないでいた。僕はそのままTの手を引き走り出した。そして岩陰に隠れて守たちの様子を観察した。走って消えた僕とTを見て守は「アッホー」と繰り返し呼びかけてきたが、僕とTは声を押し殺して笑った。そして、守に見つからないように更に岩場の奥へ奥へと逃げこみ海の側に出た。足元の近くまで静かな波が打ち寄せている。もう、守たちの追ってくる姿も見えない。月の光と静かな波の音以外、僕とTだけが岩場に張り付いた生命体となった。握っていたTの手を少し強く握り直してから彼女の身体を僕の方に引き寄せてみると、抵抗もなくTの身体が僕の胸の中に落ちたので、そのまま彼女の身体を暫く抱きしめていたら、岩場から蟹が顔を出し、月に向かってハサミの両手を広げた。

 

 伊豆で撮った4人の写真を渡すことを口実に4人で東京で会おうとしたが、僕とT以外は予定がつかず、仕方なく二人で会うことにした。

 「じゃ、モアイ像(※6)の前で午後8時に」

 二人は落ち合ってモアイ像から近い東急プラザの裏手の居酒屋に入った。この辺りは渋谷であってもオジサンたち御用達の一角だ。その辺りで飲んでいる若者は当時はまだ多くはなかったし、Tが東急プラザで働いていたので、ここらへんは詳しかった。

 守は、もう一人の方がタイプだったと言っていたし、それよりも保母さんに会いたいと言っていので、僕がTと付き合うことに何の障害もないはずだ。しかし、その時点では僕は特にTと付き合いたいとは目論んでいなかったが、一晩だけなら関係を持ちたいと酔いに任せて考えた。それでも僕が何かしら企てなくても彼女も同じことを考えていたようで、酔いのまわった二人は黙って同じタクシーに乗り込み必然的にTのアパートへと向かった。僕はタクシーの後部座席であの夜の岩場と同じように彼女を抱きしめた。

 世田谷の見慣れた通りを行く。僕にはこういう偶然がよくある。Bと付き合った時も、Bの住む町はその前に付き合っていたCと同じ町だったし、以前半同棲生活を送ったXのあのアパートはここの近くだ(いったいあの薄気味悪いアパートはどうなっているのか?いや、きっとどうにもなっていない)あの頃毎朝、朝日の眩しさに目を伏せた道を、今は反対方向に車は夜の町を進んだ。

 

 アパートの階段を上がると、すぐそこの扉にTは鍵を差し込んだ。部屋の中に僕を招くと、僕はベッドの淵に一旦腰を下ろしたが、落ち着かないので立ち上がってラジカセンのスイッチを入れ、ラジオをつけてみた。FMにチューンするとポリスの「EveryBreathYouTake♬」が流れてきた。

 「そういう曲が好きなの?」

 「そうだね、どちらかというと洋楽だね」 

 「私は洋楽はあまり知らないの」

 「あ、ごめん、曲を変えようか?どんなのが好き?あ、俺、翼の折れたエンジェル♪(※7)だっけ、あの歌好きだし、安全地帯とかも聴くし、あ、チェッカーズは、、、」ラジカセのそばにニューミュージックのカセットが沢山あるのを見つけてそういった。

 「べつに話し合わせてくれなくてもいいのよ、自分の好きなようにくつろいでて」

 

 お茶を入れて僕の隣に来た彼女が腕を僕の首に回した。自然と目と目が合う20センチの距離は、あっという間に更に接近し、唇と唇が触れると激しく奪い合った。ふたりは互いの服を脱がせ合い、すぐに彼女を全裸にすると、彼女の裸の肌はまだ褐色になりきれない痛々しい赤い色をしていて、ビキニで隠していた部分が白く強調されている。その白い肌の部分の中央にピンク色の乳首が立っていた。

 僕は財布からコンドームを取り出し素早く装着し、彼女の受け入れの準備が整っていることを確認してから彼女の中に入り一体となった。正常位から彼女の身体を起こして、仰向けになった僕の上にすると、Tは白目になり夢中になって腰を僕の下腹部に打ちつづけた。 

 

 「Hさんって、いくつなの?」

 Tはいつも、年下の僕を「さん付け」で呼んだ。「Hさん」と。

 彼女は、僕と同じ年齢の女の子たちよりもずっと落ち着いていて大人に見えたが、あえて僕が年齢を訊ねないことにTは居心地の悪さを感じていたようだ。僕が自分の年齢を伝えると、Tも恥ずかしがりながら言った。彼女は僕より5才年上だった。そして、Tには僕と同じ年の弟がいるそうだ。僕は初めて年上の女性と付き合うことになった。

 

 僕はその晩そこに泊った。そして、もう一度Tを抱いた。Tもセックスには積極的だ。僕が求める様々な体位に対してまったく抵抗をしない。行為が長く続いて、終わると僕は立ち上がることもなかった。気づくとTが大切なグラスでも扱うように僕の局部を拭いている。僕はそのまま目を閉じて眠りについた。

 目を覚ますと、彼女はパンストを履いている最中だった。僕が起きたのに気付いて、「朝ごはん用意しておいたから食べて行ってね」「鍵もここに置いておくから帰る時に閉めて行って」と早口で僕に伝えながら慌てて出かけて行った。

 そして、ドアを閉める間際にTは「いつ来てもいいからね」と言って微笑んでドアの向こうに消えた。

 

 

※6「龍の洞窟」

正式には「龍宮窟」といい伊豆下田の田牛という浜の近くに位置する。上空から見た洞窟内の形状と、洞窟から見上げた時の空の形がハート型に見えることから「愛のパワースポット」とも呼ばれている。ただ当時は知る人ぞ知るただの洞窟で、今のように観光スポットにはなっていなく、現在のように特に案内看板もなく、階段もなかったと記憶している。

 

※7「モアイ像」

渋谷のハチ公前は待ち合わせの人であふれかえっているが、モアイ象はその頃はまだ知る人ぞ知る待ち合わせの新スポットだったが、僕と彼女は知っていた。ハチ公が宇田川町方面に位置するのに対し、モアイ像は246方面に位置する。

 

※8「翼の折れたエンジェル♪」

中村あゆみのヒット曲。オリコン最高位4位。ザベストテン10週連続チャートイン、最高位5位。カップヌードルのCMソングとしても使用された。名曲だと思う。

 

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