たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

小説/Tとのこと_あの熱かった夏(2/4)

(2)年下の女

 

 退屈な夜はナンパと決めこんだ最初の晩、どこでするのが良いか迷い、あっちこっち廻って時間をロスしてしまった。結局白浜に着くころには、浜に人はまばらだった。それでも僕と守は目を凝らし、花火の薄い明りのもとに二人組の女の子を発見した。ふたりで砂浜を走った。のたのたしていると他の誰かに盗られそうな気がするので焦るのだ。近づいてその二人に声をかけると二人はやっていた線香花火の手を止めたので、ますます姿や顔を確認しづらい暗がりになった。それでも「ドライブしようよ、俺らいい場所知ってるんだ」と言うと、最初の数秒はモジモジしていた二人が「いいよ」と答え、僕と守の後ろについて来た。僕が運転席に乗り込み、守は敢えて後部座席に座ると、女の子も前と後ろに分かれて座った。

 暗がりでよく見えなかった二人を車内の明りで改めてみると、幼い顔をした明らかに中学生だった。地元の中学生のようだ。しかも1年生か2年生だ。こないだまで小学生だっただろう二人に僕は

 「ふざけんなよ、お前ら中坊だろ、乗るんじゃねえよ、出ていけ!」と声を上げると

 「あんたたちが誘ったんでしょう!絶対に降りないからね!」と頬を膨らませた。

 しばらく押し問答が続いたが僕と守は諦め「ちょっとだけドライブして降ろそう」とコソコソと打ち合わせた。

 車を走らせる。下田の町へ向かう。子供二人は、幼い子しか持たないようなポシェットを肩からタスキにかけている。その中からマイルドセブンを取り出し、ダッシュボックスの上に置かれていた僕のお気に入りの風防フード付きのライターで火をつけた。

 「クソガキのくせして、タバコとか吸ってんじゃねえよ」

 そんな僕の言葉には耳を貸さず、窓を開けようとしたとき

 「なんだ自動じゃないの?手で回すんだ、古いねえ」と笑いやがった。

そして今度はタバコの火で残っていた花火に火をつけた。全開にした窓から体を半分乗り出し花火を振り回して騒ぎ出した。

 「おい、クソガキ!火の粉とか飛ばしてシートに穴開けんじゃねえぞ」

 「どうせダサイ、ビニールのシートじゃん、気にしない気にしない」

 「すげえ、頭にきた、このガキ、山で降ろしちまうぞ」

 

 「ねえ、もっと飛ばしてよ」

 その子は肺まで吸い込めない煙を口元から吐き出しながら言った。

 ちょうど下田の町の手前の直線の道路に入ろうとしていた。

 「ねえ、飛ばしてよ!」

 「うるせえ、大人しく座ってろ」

 それでも二人は囃し立て大騒ぎしたので、僕は脅かして黙らせるつもりでアクセルを踏み込んだ。すると二人の身体がシートに押し付けられ五月蠅かった声が止まった。しかしその瞬間、もうじき町に入るあたりの海側の駐車場が突然明るくなりサイレンが回った。

 「ヤバ、検問だ」

 どうやらスピード違反の取り締まりをやっていたようだ。僕の車は警官に誘導され駐車場の中に導かれた。二人の女の子は青ざめていた。そして、僕にマイルドセブンと百円ライターを押し付け渡し 

 「これ私たちのじゃないってことで、あなたが持ってて」

 なるほど子供たちはこういうことに怯えるのか。

 案の定、僕は速度オーバーで青紙を切られた。

 20分ほど、娘たちは肩をすくめて下を向いていた。警察官も彼女等が気になったようで

 「この子たちは?」と訊ねてきた。

 「あ、親戚の子です。ガキのくせにちょっと夜風が浴びたいなんて生意気なこと言うもんで、あ、でも、もう帰りますよ、な?」と僕は助手席の女の子に声をかけると

 その子はオドオドと動揺して声が出ず、目をぱちくりさせながらコクリと一度だけ頷いた。

 やっと警官から解放されると女の子たちはさっきと打って変わって元気を取り戻し。

 「これ、夏休みが終わったら、学校の皆に自慢しよっと」

 彼女たちにとっては、こんなことも武勇伝だった。そして、今まであった自分らの武勇伝のようなことを話し出した。「いとこが暴走族で私たちも集会に出たことがある」とか「クラスの嫌なヤツをボコボコにした」とか。

 ま、こんな子供に付き合っていてもラチが開かないので、お開きにしたく。

 「お、さっきお巡りさんにもいったように、もう帰ろうな」と言って武勇伝を制止すると、二人はまた騒ぎ出し「帰らない」と駄々をこねる。すると僕にいいアイデアが浮かんだ。下田の町に入ると山側にラブホテルのネオンが見えたのだ。

 「オマエらさ、いいよ、ずっといても。でもよ、ガキじゃないんだから、次行くところは分かってるよなあ、俺たちやりたくなっちゃってさ」少し脅し口調で僕は続けた。

 「ラブホテル行ったことあるか?連れてってやるよ」

  車がラブホテルのネオンに近づくと二人は身を固く丸めた。

 「よし、入るぞ、楽しもうぜ!」

 そういって、助手席の女の子のミニスカートの膝に僕が軽く手で触れると、彼女は下を向きながら「帰ります」と、か細い声で言った。

 「そっか、残念だな、せっかく楽しいこといっぱいしてあげようと思ったのに、そっか帰るかあ、やっぱりやることやってから帰ろうぜ」

 「帰ります帰ります帰ります」とうとう娘二人は半べそ状態になった。

 僕はハンドルを来た方向に急いできって、全速で車を走らせた。さっきの駐車場では警官たちが検問の後片づけをしていた。僕は更にアクセルを踏み込み、白浜を目指した。その間二人は何も言葉を発せず大人しくしていた。

 

  彼女等の地元白浜に到着して「ここらへんでいいか」と言って車を停める。助手席の子が目を合わせることなくドアを開けて降りようとした。すると、片足が外に出かけた時、僕の方に顔を上げて、

 「これ欲しい」とダッシュボードの上にあった僕のお気に入りのライターを握った。

 一瞬躊躇した僕だが、一刻も早く降ろしたい気持ちの方が強かったので、

 「もってけよ」と言わざるを得なかった。

 その子は代わりにもうじきオイルがなくなりそうなチルチルミチルの百円ライター(※4)を 「記念に」「交換っこ」と言ってダッシュボードに置い去って行った。

 

 助手席に移った守と「今夜はついてない」と言いながら大浜への道を戻りながら僕は守に訊ねた。

 「アメグラ(※5)観たことある?」

 「お、映画だろ、あるよ」

 「これってさ、ポールルマットとマッケンジーフィリップスのエピソードだよな」

 アメリカングラフィティを観たことのある人は分かると思う。

 

 

※4「チルチルミチルの百円ライター」

一般的な百円ライター。デザイン的に何の工夫もないが、もうすこし高価で海外製の使い捨てライター「BIC」もお洒落で人気。

 

※5「アメグラ」

映画<アメリカングラフィティ>ジョージルーカス監督の出世作で、米国の片田舎の高校生たちの旅立ち前夜を描いた青春映画。

  

f:id:toughy:20211006104558j:plain