たふえいんといなあふ 不思議な魔法の言葉 

No Movie, No Life、、、映画と食べものと、ときどき天然妻、、、

小説/Nとのこと(2)CONFUSION

 

 

 

toughy.hatenablog.com

 

そう、僕はもう三人でいることに躊躇するようになり二人とは距離をとった。

 

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 それが理由ではないが、スタジャンを着ることもなく僕はテニスのサークルを抜け、大学未公認のサーフィンの会を立ち上げた。いつも酒を酌み交わす仲間数人と酔ったノリで作った10人にも満たないような会だ。僕はそれ以来、千駄ヶ谷や13号地には足を向けなくなり、毎日のように海にいた。ときどき波がなさそうな時は大学に行ったが、講義には顔を出さず、仲間とお好み焼き屋かミルクバー(もともとは駄菓子屋だったと聞いている、その頃はスナック菓子をつまみに朝から酒が飲める場所で大学の裏門のそばにあった)で酒をくらうか、麻雀かビリヤードをしていた。

 一人で海にいるときは、世の中からはぐれて漂流し、そこに辿り着いて途方に暮れているような気持ちになる。『みんな働いたり、学校行ったりしているのに、オレ、何やってんの?』と。 いずれにしても社会から取り残された感覚に陥り焦ったが、それでも生活を改めることはなかった。当然、翌年僕は留年することになるのだが、その時はまだ知る由もなかった。

 

 僕が辞めた後、YとNもテニスのサークルを辞めたようだ。そして、相変わらずいつも二人は一緒だった。しかし、その日は珍しく二人は険悪な様子に見えた。 通りかかった僕が二人に気づくと同時にNも僕に気づいて、怒っているような表情とポーズをして僕に何やら訴えようとしているので、

 僕は手を挙げ「ヤー」と声をかけながら二人に近づくと、

 Nはまるで子犬がボス犬の背後に回り込むように僕の後ろに移動してYを責め立てた。なんでも、Yがバイトを始めてから連絡が取りづらくなったと言うのだ。その上、時々声が聞けてもかったるそうな声で早く受話器を置きたがっているのが顔を見なくても手に取るように分かると言うのだ。それにはきっと自分には絶対話せない理由があるはずだ、そうだ、浮気をしているのだ!とNはまくしたてた。

 Yは「そりゃ、バイトをしていれば今までとは違って連絡が取りづらくなるし、疲れてかったるい声にもなるだろ」と同調を求めるように僕をチラチラ見ながら弁解した。

 今と違って携帯やスマホのない時代だ。固定電話と手紙と駅の伝言板が主な連絡ツールの時代だ。Nはダイヤル式の黒い固定電話の前で、いつかかってくるか分からないY からの電話を膝を抱えて待って夜を過ごすのだと言った。Nが今にも泣きだしそうな表情になったので、

 「ここではなんだから、どこか行こうよ」と僕が提案すると、

 Nは僕とYを自分のアパートの部屋に招いた。大学から徒歩で5分もかからないところにあるアパートの一階の角の部屋。日当たりが良く、女の子らしく清潔に片付いた部屋だった。どうやらYも初めて彼女の部屋に上がったようで興味深げに室内を見渡していた。僕もラジカセの周りに積まれたカセットテープをひとつづつ手に取り眺めていたが、中島みゆきユーミンオフコースいったテープのその中からYが編集したと思われるローリングストーンズのテープを発見した。そして、僕がYからもらったテープと内容が同じかどうか収録曲をチェックした。心なしか僕がもらったものより曲が多いように感じたので、よく見ると僕にくれたテープは「60」分のものだったが、目の前にあるテープは「90」で確かに曲数が多いわけだ。でも、そんなことで僕はひがんだりはしない。

 

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 Nは広島から上京して来た子だ。初めて親元を離れて開放感もある反面、一人暮らしは寂しい。今はそれに加えて、恋人への不信感が募り悲しさと悔しさで、僕とYの前で遠慮なく涙を流す。

 Yはあらぬ疑いで泣かれてしまって当惑するが、Nに言わせれば証拠はないが、それは付き合っていれば雰囲気で判ることだと主張した。そんな主張をいつまでも繰り返すNにYもいい加減腹を立て、

 「バイトがあるから帰るぞ!」と言い出し立ち上がった。

 「ほら、私よりもバイトが大切なんでしょ!」

 Yは呆れかえった表情を作って玄関に立ち、革のブーツを面倒臭そうに履き出した。 

 それを見て僕も「オレも帰るよ」と立ち上がったが、

 「Hくんは残ってよ、あの人は大切なバイトがあるから止めやしないわ!」

 Yは何も言わず、叩きつける激しい音と共にドアの向こうに消えた。

 「オレもバイトなんだけど、、、」

 僕のその言葉を聞くとNの目に一気に涙が溜まりこぼれ落ちそうになりながら、立ち上がった僕のカーゴパンツの膝元を掴んだ。

 「電話貸してくれ、バイト休むよ」

 それはきっと僕だけではない。男なら誰でもそうしたはずだ。

 Nの目に辛うじて溜まっていた涙が、カーテンの隙間から差し込む夕陽に染まりながら一筋になって口元に流れた。Nは頬をすこし緩めて「やっぱり、あの薄情な男とHくんは違うわね」と涙を拭った。そして、僕の手を引き近所のスーパーに誘った。彼女はすき焼きの肉を買い、そして、二人ではちょっと多いと思うほどの本数の缶ビールも買い込んだ。

 

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 きっとこうなることは僕もある程度予想していたし、彼女の寂しさにつけ込んだことも認める。それでも、そんな僕の予想を見越した彼女もビールを煽るように喉の奥に流し込んだ。そして、予定通りアルコールの手伝いもあって、顔どころか白い肌全体を赤く染めたNは自ら黙って服を脱いだが、最後の一線を越える間際にはとても抵抗した。僕が乱暴にしたわけでもなく、彼女が受け入れることを拒絶していたわけでもない。強烈な痛みに対する肉体的な拒否反応だった。それでも、自分に云い聞かせているのか、それとも僕に対して言っているのか分からないが、

 「大丈夫、大丈夫」と言いながら、Nは大人の女になる瞬間を迎えた。

 

 一か所が赤く染まったシーツを丸めて抱え、恥ずかしそうに微笑む彼女に

 「Yとは、、、」

 「してないよ。Hくんが初めての男。HくんがYくんが楽しみにしていたことを横取りしたんだよ」

 あくまでも屈託なく笑う彼女に対して、僕はほんの少し罪悪感を感じていた。

 「悪いのはあいつなんだから、すこし懲らしめてやった方がいいのよ。Yへの私とHくんだけの秘密の復讐劇」そう言うとまたケラケラ笑ったが、Yは僕から復讐されるような罪を犯してはいないのだ。悪いのは僕なのだ。

 そして、「一回やったらもう次は痛くないのかなぁ?」と笑いながらNは僕を押し倒しキスをせがみ、自らノーブラのタンクトップ捲り上げ、ピンクのパイル地のジョギングパンツを降ろした。そうして彼女は処女を喪失した夜に結局三度僕を求めて、そのたびに白目になって満たされた。いったい処女を喪失してすぐに快感なんて得られるものなのだろうか?

 「オナニーするのが昔から好きだった」とあっけらかんと言うように、普段は大人しい彼女だが、性行為に関してはとても積極的なNだった。